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主催事業情報 2024/8/8 KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『リア王の悲劇』翻訳:河合祥一郎さん特別インタビュー

河合祥一郎さん写真

2024年度メインシーズン「某(なにがし)」の開幕作品、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『リア王の悲劇』。        
「リア王」には、クォート版『リア王の物語』とフォーリオ版(シェイクスピアによる改訂版)『リア王の悲劇』があり、この折衷版が『リア王』として上演され続けてきました。        
今回KAAT神奈川芸術劇場で上演するのは、日本初上演となる河合祥一郎さんによる新訳のフォーリオ版『リア王の悲劇』です。    
河合祥一郎さんに本作品や、シェイクスピアの魅力についてをお伺いしました。

 

公演期間:2024年9月16日(月・祝)~10月3日(木)<ホール内特設会場>

公演詳細>>https://www.kaat.jp/d/king_lear


Q1

シェイクスピアにはクォート版とフォーリオ版が存在しますが、どのような違いがありますか?

A1

クォートとは4折本のことで、現代の単行本サイズに相当する本のことです。フォーリオはその2倍の大きさがある2折本のことで、歴史書や全集など大型本を刊行するのに用いられていました。1623年にシェイクスピア作品36編(『ペリクリーズ』『二人の貴公子』『エドワード三世』『サー・トマス・モア』を含まず)がフォーリオで一巻本全集として刊行されましたので、シェイクスピアのフォーリオ版とは、この最初の一巻本全集のことを指します。このフォーリオ版にしか収められていないシェイクスピア作品も18作品あります(『マクベス』『テンペスト』『ジュリアス・シーザー』『十二夜』など)。つまり、どの作品にもクォート版とフォーリオ版が存在するわけではありません。

2つの版がある作品でも、『ロミオとジュリエット』や『夏の夜の夢』など、クォート版のテクストをそのままフォーリオ版でリプリントしているケースは、単純に初版であるクォート版のテクストを読めばよいのです。ところが、『リア王』や『ハムレット』のように、クォート版のテクストはシェイクスピアの草稿を反映しているのに対して、フォーリオ版に掲載されたテクストは当時の上演を経て改訂の手が加わっているというケースがあり、その場合は、どちらの版を読むのかで作品理解が異なってきます。

 

Q2

今回上演するのは、フォーリオ版『リア王の悲劇』となります。従来多く上演されている「リア王」との違いは何ですか?

A2

「リア王」の場合、クォート版では『リア王の物語』、フォーリオ版では『リア王の悲劇』とタイトルさえちがっているのですが、中身もかなり異なります。日本で従来上演されてきた「リア王」はこの二つのテクストの折衷版を訳したものでした。今回の私の訳はフォーリオ版の『リア王の悲劇』を訳したものですが、クォート版の『リア王の物語』ではリアの長女ゴネリルと次女リーガンがお伽噺に出てくるような悪い娘となっていたのに対して、『リア王の悲劇』では彼女たちの言い分もしっかり言わせ、引退したはずなのに勝手気ままに横暴な態度を続けようとする老王に対して抵抗する姿勢を描いています。そのうえ、草稿段階では勢いで書いていた長すぎる台詞をシェイクスピア自身がカットし、より劇的な台詞を書き加えたシェイクスピアによる改訂版となっています。つまり、今回の上演は、シェイクスピアが上演のためによりブラッシュアップしたバージョンをそのままお楽しみいただくことができるわけです。

河合祥一郎さん写真

 

Q3

河合先生による新訳での上演は日本初演となり、演出は藤田俊太郎さんが手がけられます。今回の上演にかかる思いや藤田さんの印象などがありましたら、教えてください。

A3

藤田俊太郎さんとは蜷川幸雄さんが彩の国シェイクスピア・シリーズを演出なさっていた頃からの長いお付き合いになりますので、とても信頼感があります。しかも、最近の破竹の勢いの大活躍ぶりには目を瞠っています。すばらしい演出をどんどんなさっており、深く尊敬しています。藤田さんと一緒に長い時間をかけて台本について話し合いましたが、本当に芝居を、深く深く愛していらっしゃることがよくわかり、とても期待でき、楽しみでなりません。

 

Q4

河合先生にとって、シェイクスピアの魅力とは何ですか?

A4

藤田さんとの『リア王の悲劇』の台本打ち合わせのとき、読み込めば読み込むほど気づくことがあって、「それにしてもよくできている芝居だよね~!」と二人で感嘆していたのですが、まあ、そういうことですね。いい芝居なんです。しかも、改めて読み直したり、上演し直したり、観劇したりするたびに、新たな発見が出てくる。だから何度もあちこちで上演されるんだと思います。世界中の芝居好きの人たちにとっての共有財産になっているのも大きいですね。しかも舞台だけじゃなくて、バレエ、映画、サブカルチャーなど、シェイクスピアを通していろんなものがつながるのも魅力の一つです。

あと、翻訳していて思うのは、わかっているつもりでもわかっていなかったと愕然とさせてくれることがあまりに多いし、訳出(外国語の文章を自国語に翻訳すること。)に苦労させられるところがものすごく多いんですが、それが逆にチャレンジングでもあるという魅力もあります。

河合祥一郎さん(左)藤田俊太郎さん(右)写真
翻訳の河合祥一郎さん(左)演出の藤田俊太郎さん(右)

 

Q5

演劇初心者がシェイクスピア作品を楽しむためのコツやポイントがあれば教えてください。

A5

「シェイクスピアって難しいんでしょ?」みたいな余計な先入観を捨てて、単純に楽しむこと。それがコツだと思います。シェイクスピアは、読み書きのできない当時の普通のお客さんも楽しめるように書いていますので、肩の力を抜いて気楽にお楽しみください。

せっかくだから予習してから観劇したいとお思いの方は、角川文庫の『新訳 リア王の悲劇』を読んでみてください。詳しい解説もついていますので(笑)。

河合祥一郎さん写真

 

プロフィール

河合祥一郎プロフィール写真

河合祥一郎 

1960年生まれ。東京大学およびケンブリッジ大学より博士号を取得。東京大学大学院総合文化研究科教授。専門はシェイクスピア。訳書にナルニア国物語やドリトル先生、赤毛のアンといった児童書向けシリーズ、ポー傑作選、シェイクスピア戯曲の新訳(すべてKADOKAWA)、「若い読者のための文学史」(すばる舎)など、著書に第23回サントリー学芸賞受賞の「ハムレットは太っていた!」(白水社)、「シェイクスピア 人生劇場の達人」(中央公論新社)など

 

 

 

公演詳細

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『リア王の悲劇』 
2024/9/16(月・祝)~10/3(木) <ホール内特設会場>

作:W.シェイクスピア 
翻訳:河合祥一郎(『新訳 リア王の悲劇』(角川文庫)) 
演出:藤田俊太郎

出演: 
木場勝己/水夏希 森尾舞 土井ケイト 石母田史朗 章平/伊原剛志 ほか

▼公演詳細

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