KAATについて

芸術監督 長塚圭史からのごあいさつ

現在、世界の情勢は極めて困難です。日々目にする凄惨なニュースは、私たちの心を暗く狭いところに追い詰めます。また元日に能登半島を襲った大地震によって今も多くの方が、厳しい現実と向き合っています。こうした時、芸術に、舞台芸術に何ができるのか。人はパンのみにて生きるにあらずと言えど、今そこにある困窮を前に、時に立ちすくむこともあります。
しかし私たちは知っています。芸術が、日常を生きる人々の心を潤し、新しい視界を授けることが出来る可能性に満ちていることを。きっかけさえあれば、真っ暗な闇に、一面に続くひまわり畑を浮かべることが出来るのが人間です。あなたの悲しみや苦しみを共に体験することは出来なくても、想像することはできるのが人間です。
私たちは、舞台芸術が、誰もが持つこの能力を再認識させることができ、またさらに豊かに拡張させることだってできるのだと信じています。私たちは「想像力」の欠如した社会を望みません。そして人間の「想像力」は決して奪われてはなりません。
劇場は、この「想像力」が響き合い、育まれる、共感と気づきと思考を生み出す場所です。多くの皆さんに、劇場を知り、その力を感じていただきたいと強く願っています。

KAAT神奈川芸術劇場は、2024年度も、県民の皆さん、地域の皆さん、そして上演を楽しみにしてくださっている全ての皆さんに、こうした劇場の豊かさを知っていただくべく、3つの柱のもとに歩んでいきます。
1つ目は、1年の前半をプレシーズン、後半をメインシーズンと称したシーズン制。4月からのプレシーズンは新しい試みに満ちた作品をご用意します。夏には毎年恒例のKAATキッズ・プログラム。今年は久しぶりのイギリスからの招聘公演と気鋭の劇作家による書き下ろし新作の2作品をお送りします。そして9月からの半年間はメインシーズン。シーズン制は、劇場にリズム感、季節感を生み出します。春になると劇場が動き出し、夏には子供たちの声が溢れ、メインシーズンにはタイトルがどんと現れ、何やら新しいことが始まる雰囲気が広がっていきます。
2つ目は劇場を“ひらいて”いくこと。ただ劇場の中で待つだけではなく、大きくその扉をひらき、時には飛び出そう、と。劇場の玄関口であるガラスに囲まれたアトリウムをより開放的で、発想豊かな場所にします。また2021年に創刊した季刊誌 神奈川芸術劇場 「KAAT PAPER」は、劇場と地域、県内の方々との出会いの場。様々な角度から社会と劇場との関係を見つめます。
そして3つ目が「カイハツ」。これは劇場が常に考える場所であり、豊かな発想を生み出せる場となるよう、アーティストに思考や実験の場を提供したり、また劇場の未来につなぐための情報を集めてアーカイブしておいたりする活動です。まだまだ走り始めたばかりですが、劇場の未来を見据えて取り組む、大切な投資です。

そして大好評の神奈川県民割引は今年も全ての主催公演で実施します。破格の学割も引き続き販売。そして昨年からスタートしましたシーズンチケットも引き続き販売致します。特典も含めてお楽しみください。

2024年度のメインシーズンのタイトルは「某」。「なにがし」と読みます。私でありあなたでもあるかもしれない某、意志を持ってあるいは意志なくして正体を無くした某、また大きな思想や金儲けのために生み出される某、そして今日も一日働いて誰に褒められることもなく社会を支えている某。「某」のレンズを通すと、果たして何が見えてくるのでしょうか。

2024年度もKAAT神奈川芸術劇場にご期待ください。

KAAT神奈川芸術劇場芸術監督長塚圭史

長塚 圭史(ながつか けいし) [劇作家・演出家・俳優]

長塚 圭史
撮影:細野晋司

劇作家・演出家・俳優。1975年5月9日生まれ。1996年早稲田大学在学中に演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成し、作・演出・出演の三役を担う。2017年に劇団化。2011年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、2017年には、福田転球、大堀こういち、山内圭哉と新ユニット「新ロイヤル大衆舎」を結成。

2004年第55回芸術選奨文部科学大臣新人賞、2006年第14回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。
2008年9月から1年間 文化庁・新進芸術家海外研修制度にてイギリスに留学。
2019年4月よりKAAT神奈川芸術劇場芸術参与。
2021年4月、KAAT神奈川芸術劇場芸術監督に就任。

KAAT神奈川芸術劇場での作品
2011年1月 葛河思潮社 第一回公演『浮標』(演出・出演)
2013年9月 葛河思潮社 第三回公演『冒した者』(演出・出演)
2014年9月 葛河思潮社 第四回公演『背信』(演出・出演)
2016年4月 白井晃演出『夢の劇 -ドリーム・プレイ-』(台本・出演)
2016年8月 葛河思潮社 第五回公演『浮標』(演出・出演)
2017年10~11月 『作者を探す六人の登場人物』(上演台本・演出)
2018年9~10月 白井晃演出『華氏451度』(上演台本)
2018年9月 阿佐ヶ谷スパイダース『MAKOTO』(作・演出・出演)
2018年11月 『セールスマンの死』(演出)
2019年12月 『常陸坊海尊』(演出)
2021年1月 『セールスマンの死』(演出) ※再演
2021年5~6月 新ロイヤル大衆舎×KAAT『王将』-三部作‐(構成台本・演出・出演)
2021年9月 『近松心中物語』(演出)
2022年2月 KAATカナガワツアー・プロジェクト 第一弾『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』(上演台本・演出・出演)
2022年9月 ミュージカル『夜の女たち』(上演台本・演出)
2023年2~3月 『蜘蛛巣城』(出演)
2023年9~10月 『アメリカの時計』(演出)
2024年2~3月 KAATカナガワツアー・プロジェクト 第二弾『箱根山の美女と野獣』『三浦半島の人魚姫』(作・演出・出演)

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